屍者の帝国を読んだ
この記事について
本の感想なんて読書感想文の宿題くらいしか書いたことがないけどせっかくブログがあるので残しておきます。
屍者の帝国
元々は伊藤の第4長編として計画されていたが、冒頭の草稿30枚を遺して伊藤がガンで早逝、生前親交の深かった円城が遺族の承諾を得て書き継いで完成させた。
フランケンシュタインによる屍体蘇生術が普及した19世紀の世界を舞台とするスチームパンクSFであり、実在の人物に加えて主人公ワトソンを始め多くの著名なフィクションのキャラクターが登場するパスティーユ小説でもある。
屍者の帝国 - Wikipedia
舞台設定
登場するのは死霊術であるが、ロボットの出てくるSF作品と同じようなテーマが出てきて面白かった。ロボットと違い、ハードウェアは屍体から進化することがないので、ソフトウェア(作品内ではネクロウェア)だけがネックとなり、19世紀でサイバー戦争をやるとしたらこういう感じになるんだろうなと思った。
19世紀の通信技術がどの程度だったのかわからないが、全地球通信網、パンチカード、解析機関といった要素が出てきて燃えた。
作品内で、情報が結晶化するという設定が出てくるが、機械じかけのコンピュータとパンチカードで扱える程度の情報で結晶化するのなら、現代のシリコン製のコンピュータは大量の結晶を吐き出しながらうごくことになるんだろうなと一瞬思ったけど実際は違って、あの世界の解析機関の性能が現代のスパコンよりもずっと強いだけな感じがする。トーマス・エジソンが人間と見分けの付かないロボットを作ってるし、そういうところがある。
虐殺器官とハーモニーは同じ世界の出来事であるけれど、屍者の帝国はそういう点でファンタジーが多いし、別世界な気がする。
テーマ
虐殺器官で言葉を、ハーモニーで意識を扱い、今作では両方出てきた。円状塔氏の作品はSelf Reference Engineしか読んだことがないが、読まれることで存在する物語、物語を言葉として記述し続けることで意識を経たフライデーと、2作者のテーマが融合していたのが良かった。
全人類の屍者化、菌株の派閥統一は、ハーモニーでのハーモニクスと同義であろうが、そもそも意識自体が菌株の活動に付随して生じる副産物でしかないという残酷さが強かった。
ハーモニーも屍者の帝国も、意識という神秘的のヴェールに包まれた存在を、物質的に扱うその視点がとにかく気持ち良く、面白かった。
まとめ
他にも円城塔氏の概念をこねくり回すような文章、ワトソンの皮肉っぽい性格と好きな要素が多くて面白かった。
これで伊藤計畫氏の長編三作は読み終えてしまった。少し残念。